まるごと愛させて
失恋のその先に
「杏菜〜聞いてる〜??」
手に持った生ビールのグラスをドンっと机に置くと
心底面倒くさそうに私の相槌を聞きながら
携帯を触ってるこの子、一応親友。尼崎杏菜。
「はい、はい、聞いてるってば。なーに?それでまた許すの?」
そう、彼氏の和樹と付き合って3年。
浮気された回数、これで4回目。
しかも、これはあくまで私が見つけた回数。
知らない所でもっとしてるのかもしれない。
「…うーん、そろそろしんどいな〜。」
ここ数ヶ月は会うと言っても家デート。
むしろ、デートと言えるのか、あれは。
「だろうね。よく耐えてる方だと思うよ、あんたは。でも、そう思ったらもう辞めときな。引き際でしょ。」
「ふぅ〜、だよね〜。よし!!!もう別れる!絶対!!明日保育園終わってから話つけに行く!」
そう杏菜に言い切ると残りのビールをグイッと飲み干した。
「上手く丸め込まれない様にね。」
うっ。
確かに和樹、口上手いもんな。
「負けない!今度は!!」
「あっそ。所で私そろそろ帰るわ。」
財布からお札を何枚か出して机に置く。
「えっ、もう??今日は付き合ってくれるって言ったじゃーん!」
まだ週がはじまって序盤の火曜日。
あんまり遅くまで飲んでられないのは分かるけどさ。
「あのね、一杯付き合うって言ったの!まだ帰ってからもう一仕事あるんだからね、こっちは!」
「へいへい。待っててくれる旦那さまがいますもんね〜。」
そう、杏菜には大学を卒業してすぐに結婚した旦那様がいる。幸せな既婚者だ。
「まぁ、そう言うことだから!唯が無事に別れたら金曜日に祝杯あげるから。朝まで付き合う。」
「ほんと??」
「ほんと!ほんと!だからさっさとしょうもない男とは別れちゃいなさい。あんたはもっと良い人いるから!」
そう言い残して居酒屋を去っていった。
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