まるごと愛させて
ー日常
ーーーーーーー金曜日。某居酒屋。
目の前の杏菜がビールを入ったジョッキを
ガンっ!と机に置く。
「んで??和樹とはとりあえず無事に別れられて、新しい男が出来たって訳ね!!」
ちょっと。今のは語弊がある。
「違うって!アランは付き合ってないもん。」
「へぇ〜〜アランねぇ。」
ニヤリニヤリと不気味に笑う杏菜。
「別にアンタを責めてる訳じゃないよ。今日はクダを巻かれると思って来てたから寧ろ前向きな報告が聞けてラッキー!」
「ゔっ。いつもご迷惑をお掛けしてすみません。」
そう。和樹に浮気されるたびになんやかんや杏菜はいつも付き合ってくれていた。
「ははっ!過ぎた事はもういいの。よしっ!もっかい乾杯するよ!新たな出会いに〜〜乾杯〜!!」
再び杏菜とジョッキをガチンと合わせると、
ビールを煽った。
「いい、唯、これだけは言っておく。恋に時間は関係ないからね!全ては勢いとフィーリングよ!!フィーリング!」
「フィーリングねぇ。淳くんともそうだったの?」
淳くんとは杏菜の旦那様だ。
「そうよ〜。まぁ、私の場合は完全に母性本能くすぐられたんだけどね。」
「杏菜口は悪いのに面倒見いいもんね。」
「ちょっと、私の事貶してんなら許さないよ。」
綺麗な二重瞼を細めて私をキッと睨む。
「褒めてるんです〜!!」
杏菜がこんな性格だからか、旦那様は物静かでいつも杏菜をそっと見守ってるタイプ。
案外真逆な性格が合うのかな。
「で、予備校に勤めてるんでしょ?ホームページに顔載ってるんじゃない??」
「…調べる気??」
「もちろん。親友が見極めてやるわよ。」
そう言って携帯から予備校のホームページを開いていた。
あれからアランとは時間を見つけてLINEのやりとりをしている。
大きいのは体だけで、3歳から日本にいるアランはしっかり心は日本人だ。
心優しくて謙虚で温かい人。
「あっ、あった!あった!これじゃない??」
そう言って講師の紹介ページを開いていた。
そこにはしっかりとアランが写っていて、
「ねぇ、これでしょ!いやー、黒人て言うからガッツリなの想像してたら案外イケメンじゃーん!!」
「アランは黒人じゃなくてハーフ!!ちゃんと日本人の心持ってるもん。」
「はい、はい。ごめんね。そんな不貞腐れないで。今のは私が悪かったから。」
むぅ。と拗ねているとポンポンと頭を撫でた。
「でも、ホントにこの人に会えてよかったって思ってるよ。唯がアイツを引きずってないのはこの人のおかげでしょ。」
そう言う杏菜の目は優しい。
「うん。すごく優しいの。」
「そっかそっか!いつか会わせてね。」
「付き合ってるわけでもないのに??」
「そのうち付き合うよ。」
杏菜は未来が見えてるみたいにそう言い切った。
「なんでわかるの??」
「唯を見てたらわかる。」
ーーーー
それから金曜日と言うこともあって、
トータル3軒ハシゴした。
「んじゃぁね〜〜〜!唯!また飲み行こうね〜!」
ほろ酔いをすでに過ぎてすでに出来上がった杏奈を旦那様の淳くんが迎えにきた。
「ほんとに、送るよ。」
「ううん。早く帰ってあげて。この後大変でしょ?」
伊達に親友でいる訳じゃない。
この酔い方をした杏菜は家に帰ってから相当大変。
いつもはしっかりしてるのにお酒に酔っちゃったら
ほんとに手がかかる。
「あぁ…。ほんとに気をつけて。じゃあ、お先です。」
「うん。飲ませ過ぎちゃってごめんね。…じゃあね!杏菜!」
タクシーに乗り込んでいく2人を見送ってから
私もタクシーを捕まえて自宅に帰った。