まるごと愛させて
「黒人だとびっくりしますよね、すみません。あ、それとこう言う者です。」

胸ポケットから名刺を取り出すと私に差し出してきた。

予備校講師 佐賀野アラン

「えっ??佐賀野さん?」

見た目とは似つかぬ名前に佐賀野さんを二度見した。

「はい、佐賀野です。ハーフなんです。父親がアメリカ人で。あ、佐賀野は母の姓です。」

「あ、ぁあ!そうなんですね!すみません。失礼な事を。」

「いえ、慣れてるので気にしないでください。」

「あ!お礼を言うのが遅くなりました。助けて頂いてありがとうございました。」

頭をガバッと下げるとまた少し足元がふらついてしまった。

「酒飲まれてますよね?ひとまず座って下さい。危ないですよ。」

「あ、すみません。」
佐賀野さんの隣りに人1人分空けて座った。

「これ、飲んでください。常温ですけど。」

佐賀野さんがペットボトルのお水を私の横にちょんと置いた。

「すみません。ほんとに。…あーぁ、ほんと情けないなぁ。」

遠慮なくペットボトルを開けるとお水を一気に飲み干した。

ふぅ。と息を吐いて佐賀野さんをチラッとみると
目がばっちり合ってしまった。
そしてその表情は唖然としていた。

あ、引かれちゃってるわ、コレ。

「あ、いや。すみません。みっともない所見せてしまって。」

バツが悪くなって意味もなくペットボトルを手で弄ぶ。

「何があったか分かりませんけど、女の人が1人飲みは危険ですよ。タクシーで送ります。」

「いえ、いえいえいえ!大丈夫です。もうすぐ終電あるし!これ以上佐賀野さんに迷惑かける訳には。」

初対面でそこまでして貰う訳にはいかない。
どこぞの酔っ払いでもこんなに心配してくれるなんて。

「あ、そうですよね。知らない人に家までって怖いですよね。」

「佐賀野さんは怖くないですよ。むしろ私の方がよくわかんない酔っ払いですよね。」

「じゃあ、電車で最寄りまで送らせて下さい。心配なので。」

なんって良い人なんだ!!!
紳士だなぁ。

でも、迷惑だよね、絶対。
見た感じ仕事帰りっぽいし。
疲れてるし早く帰りたいよね。

「って言うのは建前です。」

「えっ??」
建前??
「もう少し話したいなって言う下心もありました。」

えっ?本人に言っちゃう??それ。

「っあはっ!あはははっ!佐賀野さん面白い!…じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか。最寄りまで。」

なんでかな。酔っ払ってるせい??
失恋の後なのに自然と笑えちゃってる。

「はい。勿論です。立てますか??」

先に立ち上がった佐賀野さんが手を差し伸べてくれた。

「わぁ、手も大っきい。…あ、すみません。ありがとうございます。」

目の前の私の倍ありそうな手を握ると、
軽く引っ張って立ち上がらせてくれた。

「行きましょうか。」

握った手はすぐに離れて並んで駅構内を歩く。
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