まるごと愛させて
「私、名前言ってなかったですよね。唯です。木下唯。すみません仕事柄名刺持ってなくて。」

たまに憧れるんだよね、
名刺交換。キャリアウーマンみたいで。

「唯さん。覚えました。人の名前を覚えるのは得意です。」

いきなり名前で呼ばれてびっくりしたけど、
きっとハーフの佐賀野さんからしたら普通の事なのかもしれない。

「あ!私も!!最近の子は変わった名前も多いから一苦労ですけど!あ、私保育士なんです。」

「唯さんも先生なんですね。」

「まぁ、私の場合は子供相手ですけど。」

佐賀野さんと話しながら歩いていると妙に視線を感じる。

…あ、目立つんだ。
おっきいのもあるけどハーフだから。
佐賀野さんはいつもこの視線を感じてるんだ。

「唯さん?歩くの早かったですか?」

歩いてた足が自然と遅くなってたみたいで三歩先で佐賀野さんが待っていた。

「あ、すみません。そうじゃないんです。」

「…あー、少し離れて歩きましょうか、唯さん前、歩いて下さい。すみません、気が利かなくて。」

わかってるんだ、やっぱり。
佐賀野さんの顔を見上げると、
困った様な顔をしていた。

そんな顔しなくてもいいのに。
彼のこれまでの扱いが一気にわかる気がして
切なくなった。

「どうして?一緒に歩きましょうよ。」

思い切って佐賀野さんの腕に自分の腕を巻きつけて
前に進んだ。

「ゆ、唯さん、いいんですか?俺のことは気にしなくていいですから。」

「佐賀野さんも私のこと気にしなくていいです。見られてても別になにも思いません。ただちょっと悲しくて。佐賀野ずっとこんな思いしてきたんですか?」

「仕方ないですよ。でもいいんです。唯さんみたいにわかってくれる人が一人でもいれば。行きましょう。どっち方面ですか?」

佐賀野さんはすこし笑って、前を向いた。
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