男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
第一章
――カーン、カーン。
ラインフェルト帝国の帝都を一望する高台に悠々と聳え立つ宮廷の中庭に鐘の音が響き渡る。
二連打の鐘は、故人が常夜まで迷わずにゆけるよう誘う道しるべ。弔いの鐘だ。
ラインフェルト帝国軍の前最高司令官で初代元帥の栄誉まで賜った父の国葬には、皇帝陛下をはじめ名だたる要人らが中庭を埋め尽くすほどに集っていた。その参列者全員が鐘を合図に揃って頭を垂れる様は圧巻で、視界の端に捉えると、もともと父親らしいことなどしてもらった記憶のない父が一層遠く感じた。
……おかしいわね。一国の平安をその腕ひとつで築き上げ、英雄ともてはやされた人なのに、一家庭の安寧を築くことができなかっただなんて。
だが、ひとつ見方を変えれば、母の情夫が幾人も入り浸って浪費し放題の状況や、屋敷や家財まで抵当に差し押さえられるまで窮した我が家の懐事情を知らぬまま逝けたことは幸せなのかもしれない。
もっとも、残された方はたまったものではないけれど。自嘲的な笑みが込み上がりそうになるのを、意識的に口もとを引き締めて堪えた。