男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 私は引いた力を吸収できずに、無様にも奪い取った大判のマントを被るような格好で、床に尻もちを突いた。
「おい!? 怪我はないか?」
 ダボット様は目にも留まらぬ速さで箱を床に置き、私を助け起こそうと腕を伸ばす。
「は、はい。大丈夫です。それより、急にマントを引っ張ったりしてすみませんでした」
「いや、俺こそすまん。マント留めが緩んでいようとは思ってもみなかった」
 恥ずかしやら、情けないやら。私は片手で頭上に掛かったマントを引き下ろしながら、もう片方の手を差し出されたダボット様の手に重ね――。
「お前たち、往来でなにをやっている」
 手と手が触れ合おうかという、まさにその時。頭上から地を這うような低い声がかかり、同時に私の手首がグッと掴まれて引き上げられる。
 立ち上がり高くなった視界に、苦虫を噛み潰したような表情をしたサイラス様が飛び込んだ。
「サイラス様!」
「なかなか戻らんから様子を見に来てみれば、お前はこんなところで水を売っていたのか。怠惰な業務態度には、仕置きが必要か?」
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