男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 サイラス様は、明らかに虫の居所が悪そうだった。とはいえ、こうして従者仕事の最中に回廊の往来で醜態を晒し、人目を集めているのはすべて私の至らなさであり落ち度だ。
「申し訳ございません」
「陛下。恐れながらセリウスは決して、水を売っていたわけでは――」
 静かに頭を下げたら、そんな私を庇おうとダボット様が声をあげた。
「お前には聞いておらんわ。ダボットよ、近衛は余程に暇なようだな。……これならば、来季の人員と予算は削減しても問題なかろう?」
「な!? そ、それは……」
 閉口するダボット様に、サイラス様は酷薄に笑み、クイッと顎で近衛の詰所に続く方向を示した。
「ハッ。冗談だ。さっさと行け」
「御前、失礼いたします」
 皇帝陛下にピシャリと言われてしまえば、ダボット様とてそれ以上言い募ることはできず、礼を取って踏み出した。
「あ、ダボット様! これを……!」
 その背中に、サイラス様に握られたままの手と反対の手で慌ててマントを掴んで差し出す。
「親切心で運んでやるつもりだったが……、逆にすまなかった」
< 105 / 220 >

この作品をシェア

pagetop