男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
「……宮廷の管理全般を担っておられるのですから、侍従長というのはやはり大変なお仕事ですね」
 ゼネダ様の遠ざかるうしろ姿を見送りながらこぼす。
「さて、どうだかな」
 サイラス様はあっさりと返し、ゼネダ様が座っていた場所に腰を……いや、『ゼネダ様が座っていた場所』というのは正しくない。サイラス様はゼネダ様が空けていた僅かな空間を詰め、私の腕と触れ合う近さに並んで座った。
 着衣越しにもしっかりと感じるサイラス様の引き締まった腕の感触と、私よりも少し高い体温が、心をざわざわと落ち着かなくさせる。
 ……このざわつきの正体がなんなのか。何度となく同様の思考を繰り返すうちに、私の中で段々と核心に迫ってきているのを感じていた。
 しかし私は、それを知ることを意図的に放棄した。一旦これを自覚してしまえば、これまで通りにはいられなくなると本能的に感じたからだ。ガラス細工のように脆い均衡で、なんとか保っている心のバランス……。それが崩れてしまうことが怖かった。
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