男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 私とサイラス様の関係は契約でのみ成り立っていて、それ以上でも以下でもない。
 自分自身に言い聞かせるように胸の中で呟いて、触れ合う腕から伝わる逞しい感触と温もりをできるだけ意識しないようにした。
「そもそも、なにをもって『大変』と言うのかが、俺にはわからん。少なくとも俺は、己の肩に宮廷のみならず一国の民の生活を背負って立つが、それを大変と思ったことは一度もない」
 サイラス様が続けた台詞を耳にして、切ない思いが胸に湧く。
 ……全てを手中に収めながら、孤高の王には心休める場所がないのだ。
 絶対王者として国の頂点に立つ彼の孤独を垣間見た思いがした。
「そんなふうに言い切れてしまうあたり、あなたはとても強い。そして私は、大変な責任と重圧の中で一国の最善の為に取捨選択を繰り返すあなたを、いつも尊敬しています。……けれど一方で、そんな立派過ぎるあなたを少しだけ心配にも感じています」
「ほう、俺が心配だと? 面白いな、なぜそう思う?」
「夜にあまり、眠れていないようですから」
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