男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 ……お父様。国の英雄もいいけれど、私たち家族のこともほんの少しでも顧みてほしかったわ。
 胸の中で小さく恨み言をこぼしながら、カサつく手指を組み合わせて胸にあて、頭を垂れて天へと旅立つ父の安らかな眠りを願った。
 どのくらいそうしていただろう、左隣に立っていた弟のセリウスが飽きた様子で喪服のドレスの裾を引いた。
「ねぇセリーヌ姉様、いつまで頭を下げているの? 僕、早くお部屋に戻って残りのお菓子を食べたいよ」
 目線を向けると、セリウスはキラキラとした目で訴える。
 親族用の控えの間として宮廷内に宛がわれた一室には、宮廷専属の菓子職人の手で作られた芸術品のような菓子が多く備えられていた。普段、私の作る素朴な菓子しか口にしていないセリウスは、輝くばかりの菓子が気になって仕方がないようだ。
「こら、セリウス。これがお父様との最後のお別れよ。ちゃんとご冥福をお祈りしてちょうだい」
 唇に人差し指をあてて咎めれば、セリウスは心底分からないというようにキョトンとした表情で私を見返した。
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