男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 この時の感情をひと言で表すことは難しい。俺の従者を投げ出して雲隠れするセリウスへの怒りや、男装し身替わりでのこのことやって来たセリーヌへの呆れ。さらには、ここまで姉弟の暮らしぶりを気にかけ、窮状に際して差し伸べた俺の誠意が手酷く踏みにじられたことへの落胆も。とにかく、俺を軽んじ謀った姉弟に対し、ありとあらゆるどす黒い感情が胸に木霊してとぐろを巻いていた。
「……其方が俺の従者として仕えるプロスペールの長男か。言葉を許す、面を上げよ」
 歯噛みしつつ、居並ぶ臣下らの手前なんとか表面上の平静を装って言い放つ。
 俺の求めでゆっくりと金髪頭が持ち上がり、透き通る肌に絶妙に配された美しい目鼻立ちをした眩いばかりの顔が現れる。その瞳は当時と同じ、濁りを知らぬ宝石よりも澄んだブルーだ。
 ……ああ。あの時の少女が四年の月日を経て、なんと麗しく成長を遂げたのか。
 男女の性を超越した凛とした美貌に思わず息をのんだ。同時に懐古の情が清水のように湧いてきて、燃え滾る怒りの炎の勢いを鎮める。
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