男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 もしかすると、本当に断ち切れたのは私の甘さや弱さで、左手にかかるのはそういったものの重さだったのかもしれない。
「これでよろしいでしょうか」
 背筋を伸ばし、凛と前を見据えて告げる。
 扉から今まさに出て行かんとしていたサイラス様が私を振り返り、彼と私の目線が絡んだ。澄んだアメジストの瞳に、生まれ変わった私はどう映っているのだろう。
 少なくとも私が……セリウスが、従者として仕えるべく確固たる意志を持ってやって来たことは伝わっているはずだ。
 私は真っ直ぐに彼を見返しながら、セリウスの身代わりを決意した三日前へと思いを馳せた――。

 我が家にサイラス様の紋章入りの封書が届いたのは、屋敷からの立ち退きを翌日に控えた三日前だった。
「セリウスを従者にですって……!?」
 セリウスの寝室で書状の文面を辿った私は、驚きの声をあげた。
 父の死去から四年が経ち、我が家はますます困窮を極めていた。先祖代々が暮らしてきた家屋敷こそあれど、既に家財と呼べるものはひとつも残ってはおらず室内はがらんどうだ。
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