男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 当然、私が祖父母から引き継いだ僅かばかりの装身具や少女時代のドレスなどは一番初めに売り払ってしまっている。セリウスには寝台を残したが、私のそれは一年前に差し迫る生活費に変えた。それ以降、私は毛布に包まって床で眠るようになった。母が屋敷内に僅かばかりに残る家財を根こそぎ持って、ひとり出て行ったのもその頃だ。
「セリーヌ姉様、僕は従者として宮廷に行きます。これで明日から……っ、ゲホッ……ゴホッ」
 一緒に書状を覗き込んでいたセリウスが静かに口を開くが、最後まで言い終わらぬうちに苦しげに咳き込んでしまう。
「大丈夫? さぁ、これを飲んで」
 私はセリウスの背中をさすり、水の入ったコップを差し出す。セリウスはコップを受け取るとゆっくりと口に含んで喉を鳴らし、ホウッとひと息吐き出した。
 十代の少年の成長というのは目覚ましい。これまで向こう見ずな言動であんなに私をハラハラさせ通しだったセリウスは、今ではすっかり大人の落ち着きを身に着けていた。
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