男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません！

　彼に成長を促したのは学問。四年前にたまたま出会った博識な老紳士・ウィルソン卿が、我が家の窮状に同情してか、有り難くもセリウスに無償での学術指南を申し出てくれたのだ。
　セリウスは学問に没頭し、ウィルソン卿に直接指導を受けるだけでなく、彼から借り受けた多くの書物を寝台上で読み耽って過ごした。乾いた土が水を吸うように知識を吸収し、同時に幼げだった精神面もみるみると成熟していった。
　ところがセリウスの精神的な成長を喜ぶ一方で、彼の身体の状態は以前よりもずっと悪かった。もともと幼少期から体調を崩して寝込むことが多かったが、ここ二、三年は冬のワンシーズンをまるまる寝台上で過ごすようになっていた。
　セリウスが従者として宮廷に上がるのが不可能なことは目に見えている。常識的に考えれば、セリウスの現状を丁寧に説明した上で、辞退を申し出るのが最善だ。
　けれど……。下げた目線の先にある破格の金額が記された小切手を注視して、ゴクリと喉を鳴らした。