男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 説明によれば、書面と共に同封されたこれは従者として参内する体裁を整えるための支度金で、さらに必要があれば一部の給金の前払いも可能という破格の条件が記されていた。
 私はこのお金が喉から手が出るほど欲しかった。実は、立ち退きの期日を明日に控え、私たちはいまだ行き場が決まっていなかったのだ。
 このお金さえあれば――!
「セリウス、宮廷には私が行きます」
 小切手を握り締め、きっぱりと告げる。
「なにを言っているの!? 打診は僕にきたんだ! そもそも女の身で陛下の従者なんて、許されるわけが――」
 興奮気味に声を大きくするセリウスの唇にトンッと人差し指を宛がって、言葉の続きを遮る。
「いいえ。私とあなたは瓜二つだわ、私がセリウスとして陛下の従者に上がるのよ。絶対に見破られずにやり切ってみせるわ」
 病弱なセリウスは身体的な成長が遅く、いまだ男らしさとは無縁だ。そのため、もともとよく似た姉弟ではあったが、今の私たちは容貌はもとより背格好までがぴたりと同じだった。
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