男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 私の提案に、セリウスは即答で頷いた。
「あの、お母様。私とセリウスはお庭を少し散策してから戻ります」
「勝手になさい」
 母はぞんざいに答えると私たちにくるりと背中を向け、宮廷の玄関ホールの方へと歩いていった。
「ねぇねぇ姉様。今日のお母様、いつもにも増して不機嫌じゃない?」
 母の背中を見ながら、セリウスが小さく囁く。
「きっと、お父様が突然亡くなって諸々の処理なんかで忙しかったのよ」
 私はあえて事実ではない答えを選び、軽い調子で返した。
 母が不機嫌な本当の理由は、突然の葬儀によって年下の恋人との旅行に行けなくなってしまったからだ。しかし、十歳の弟にこんな事実を伝えられるわけがなかった。
「ふーん、そういうもの? 僕には姉様の方が、よっぽど忙しそうに見えたけど……」
 怪訝そうに首を傾げるセリウスに曖昧に微笑んで応え、馬車停めや玄関ホールに進む参列者の波に逆らうように中庭から庭園へと続く石畳を歩きだした。
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