男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 ちょうど午前の政務にも区切りがついた俺は午前中いっぱい温めていた政務机を立ち上がり、戻らぬセリーヌを捜して歩きだした。
 セリーヌの姿は、書記官室に程近い回廊にあった。往来を避け、支柱の脇にしゃがみ込む細い背中に歩み寄りながら声をかける。
「そんなところでなにをしている?」
「サイラス様」
「ニャァー」
 俺の問いかけには、ふたつの声が返った。ひとつはセリーヌ、もうひとつは俺が飼育するメスのピューマ・ニーナのものだった。
 ニーナは四年前に怪我を負い、腹を空かせた状態でセリーヌ姉弟に保護されたあの時の赤ん坊だ。ヘッセラボス共和国からの献上品で、俺が行方を捜していたの母ピューマは、翌日になってニーナを見つけた場所から少し離れた樹林内で惨殺体で発見された。
 猟奇的な犯行は、愉快犯によるものか。……あるいは、俺への宣戦布告なのか。
 奇しくもニーナを保護した晩から降り出した雨が犯人の証拠を洗い流し、母ピューマを惨殺した犯人は割れていなかった。以降、俺は宮廷内に潜む不穏分子の存在にずっと神経を尖らせている。
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