男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 セリーヌに窘められたニーナは、居心地悪そうにプイッと俺から顔を背けた。
「……ふふふっ」
 ふいに、セリーヌが忍び笑いをこぼす。
「なにがおかしい?」
「いえ。ニーナはちゃんとわかっているんだなぁと思って」
「コイツがなにをわかっているというんだ?」
「この子は、あなたには我儘を言って甘えても大丈夫だとちゃんとわかっているんです。ほら、幼子というのはよく、相手を見て態度を変えませんか? 己に対し絶対的な愛情を示す者には我儘を言って、時に困らせるような行動だってしてみせます。けれど、それ以外の人の前ではお利口さんにしていたり。それと一緒ですね」
 セリーヌの言葉を聞きながら、俺の胸に切なさが湧き上がる。
 十中八九、それは彼女の実体験に基づいた発言だ。彼女はずっと弟のセリウスに、我儘を言って甘えることのできる環境を与えてやってきたのだろう。
 しかし、セリーヌ自身はどうか。彼女には甘えて過ごせる場所や時間など、まるでなかったのではないだろうか。
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