愛して欲しいなんて言わない!
「何、勝手に来てるんだよ」

西九条が低い声を出す
西九条の父親はちらりと私たちを見ただけで
勝手に家の中に入ってきた

ずかずかと足を立てながら
居間に辿り着くと
家人の許可のなくソファに座った

偉そうに背をそらせながら、
背もたれに肘をかける

「理菜さん、お茶」

西九条と同じような声色で
父親が口を開いた

「いい、俺がやるから」

キッチンに行こうとする私を止めると
西九条がキッチンに入った

「キッチンには女が入るものだ
お前はやらなくていい」

西九条の父親が
不機嫌な声を出す

「どうせ
理菜の淹れたお茶に文句を
言うだけだろ?

美味しく飲めないヤツに
飲ませるお茶はないんだよ」

「ふん、馬鹿息子が!」

「馬鹿に育てのはあんただ」

「私は子育てに参加していない
馬鹿にしたのは早苗だ」

早苗?

私は西九条を振り返ると
『母親だ』と口ぱくで教えてくれた

「お得意の責任逃れかよ
社長は逃げるのが得意だよな」

「闘ってばかりでは
いざって時に勝利できないからな」

「意味がわからねえこと
言ってんじゃねえよ

闘えない男に何の魅力があるんだよ」

西九条は父親と仲が悪いんだ

今日まで
お互いの両親について
詳しく話したりしなかったから

ここまで仲が悪いとは思わなかった
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