愛して欲しいなんて言わない!
「使いなさい」

西九条がいつも使っている筆箱を
そのまま差し出された

中にはシャーペン、三色ボールペン
消しゴム、定規が高級そうな皮の筆箱に入っていた

「え…でも」

「俺は職員室に戻れば、いくらでも
書く物はあるから
筆箱が見つかったら、返してくれ」

西九条は気づいているようだ
私の曖昧な発言で
持っていたはずの筆箱が
何者かによって盗まれたと

上履き、皮靴となくなっているのを
知っているから
簡単に察しがついたのだろう

私は頭を下げると
西九条のシャーペンを借りて
黒板に書かれた文字を書きうつしていった

西九条は実験の説明も戻る
私を見ていたクラスメートも
前を向いて授業に戻った

一人
私を見ている人がいた

小林だった
心配そうに私を見ていた

私と目が合うと
「気づいてあげられなくてごめんね」
と声を出さず、口だけを動かして謝っていた

別に小林のせいじゃない

私は首を振ると黒板に目を戻す

黒板の横に立っている西九条が
一瞬、怖い顔で小林を見た

え?
私は西九条の顔をもう一度見るが

すでに西九条の表情はいつも通りの
優しい顔になっていた
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