幼女で領主で聖女様!?名前を奪われ外れスキルと追放されたけど、辺境の地でなりあがる!
 人間の目には見えないと言うが、アルダリオンの目にはリーゼの身体から流し込まれる魔力が堤防に染み込んでいくのが見えた。
 人間の年齢のことはよくわからないが、リーゼはまだ五歳だという。だが、人間の五歳は、こんな風にものを考えるのだろうか。
 堤防に魔力を流し終えたリーゼは、泥だらけの手で頬をこする。

「シド、次!」

 いくらフード付きの上着を着ていても、こんなに激しい雨の中ではそれも無駄だ。すぐに濡れてしまう。
 シドがリーゼを乗せて走り出し、アルダリオンはそのあとを追う。
 リーゼが堤防に下りる度に、傘をさしかける。そんなことをしたって、一瞬のことだとわかっているのに。

「リーゼ嬢ちゃん、お前早く家に戻れ!」
「やだ――かたくなぁれ!」

 迎えに来たサージには、リーゼは首を横に振った。泥まみれの手を堤防にあてがい、ひたすら魔力を流し込む。
 リーゼにできるのは、対象としたものを"かたくする"ことだけ。だが、今にも崩れそうな堤防では、リーゼの持つスキルは、一番有用なものだった。

「アルダリオン、お前、こんなちびっこを雨の中働かせるわけにいかないってわかってるんだろ?」
「かたくなぁれ!」
「ですから、お嬢様に傘を差しかけているではありませんか」
「かたくなぁれ!」

< 113 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop