志岐さんと夏目くん
お互いにお互いのことを思いながら、無理はせず、無理をさせない。
私たちの関係は、そういうものがいい。
「行こ、夏目くん。 色々話しながら、ゆっくり帰ろう」
「うん」
カバンを持って教室を出ようとした、その時。
「美織さん」
夏目くんが……そっと私の名前を呼んだ。
「ずっと前から美織さんが好きでした。 だから俺と付き合ってください」
会話の流れでサラッと出た言葉じゃなくて。
今度こそ本当に、ちゃんとした告白だ。
もうお互いに答えはわかってる。
だから夏目くんは微笑んでいるし、私も……ビックリはしたけれど、すぐに笑顔を見せることが出来た。
「私も涼太郎くんが好きです。 だから、こちらこそよろしくお願いします」
どこにでもあるような、普通の言葉。
平凡な私に言えるのは そんな平凡な言葉だけだったけど。
でも。
心の底から出た、たった一つの言葉だ。