志岐さんと夏目くん
なんなら今日が初めてかもしれない。
覚えてないくらい小さい時は もっと普通に話したりはあったかも? とは思うけど、覚えてる限りでは全くない。
「志岐さんって奥手なんだねぇ。 私はいっつもベタベタしたいって思うけどなぁ」
「私もー。 恥ずかしいけどチューもいっぱいしたいよねー」
「ねー」
……そういうものなのかな。
全然わからないや。
と女の子と二人で喋ってた時、男子側の方でガタンッという大きな音がした。
どうやら三つあったグラスのうちの一つを倒してしまったらしい。
プラスチック製のグラスだったから割れはしなかったけど、テーブルは一面水浸しになっている。
近くに物を置いていなかったのが、不幸中の幸いだ。
「ちょっと、何やってんのー!?」
「大丈夫!?」
佐々木さんと平山さんが慌ててそばに寄る。
グラスを倒してしまったのは近藤くんらしい。
「ごめんごめん」と言いながらも、顔はヘラヘラしたままだ。
「あ、これ使って。 ティッシュだけじゃ大変だろうから」
と言って、カバンからハンドタオルを取り出す。
汗ふき用にと常に持ち歩いてるタオルだけど、今日は使ってないから綺麗なままだ。
むしろ、そうじゃなきゃ取り出さない。