志岐さんと夏目くん
……自分たちのイチャつきぶりを見せつけるだけならまだしも、さすがにこれはやり過ぎだ。
男子二人はニヤニヤしてるけど、女子二人はどこか心配そうな顔をしている。
そして、夏目くんは……、
「アホくさ」
……と言ったあと、呆れたように息を吐いた。
「そういうのは強要されてするもんじゃないから。 志岐さん、帰ろう」
「おい、逃げんのかよー」
「そう思うならそれでもいいよ。 ここは俺が払うから、時間いっぱいどうぞ楽しんで」
夏目くんは顔ににっこり笑顔を貼り付けたまま、財布からお金を取ってテーブルに置いた。
「なんだよ、そんなに怒ることか?」
「な。 たかがキスじゃん」
男子二人は、冷めたような顔で夏目くんを見ている。
女子は二人をなだめようとするけれど……それでも言葉は止まらない。
「マジつまんねー。 空気読めよ」
「無理無理、コイツ昔っから空気読めねぇ奴だもん」
「アハハ、確かに。 相当ヤバいよな」
「同じ高校になんなくてマジでよかったわ」
見下すような目で、言いたい放題。
けれど夏目くんは黙ったままで、そっと私の手を握ってからドアへと向かって歩き出した。