志岐さんと夏目くん
楽しい時間
………
……
…
夏目くんの手を引いたまま、駅の方へと向かって歩く。
カラオケ店から早く離れたかったから、とても早足で。
目を合わせることは出来なかったけど、それでも夏目くんに向けて言葉を繋いでいく。
「夏目くんごめんね。 突発的に動いちゃったや」
「……志岐さん、ちょっと。 ねぇ、一回止まって」
「ごめん。 私、最低のことしちゃったね。 無理矢理にあんなことしちゃって、本当にごめん」
「志岐さん」
夏目くんが、強制的に歩みを止める。
目が合った……と思った直後。
夏目くんが、自分の制服の袖で 私の口元をぶっきらぼうに拭き始めた。
「な、なに、どうしたの?」
「俺のせいで、志岐さんが汚れたままなのは嫌だから」
「……いや、むしろ私の方が夏目くんの唇を汚してしまったと思うのですが……」
自分のことがどうこうよりも、夏目くんに対する申し訳なさでいっぱいだ。