志岐さんと夏目くん
「……夏目くん、さっきは本当にごめんなさい。 あ、私ウェットティッシュ持ってるからさ、よかったら使って?」
「要らない」
「そんなこと言わずに、ちゃんと口を拭いた方がいいと思う」
「いいって。 本当に必要ないから」
そう言ったあと、夏目くんは私の手を引きながら ゆっくりと歩き出した。
「俺が近藤と山口に見栄を張り続けたせいで志岐さんを傷つけた。 本当にごめん」
「……そんなことないよ。 私は全然、大丈夫だから」
「ごめんね」
……違うよ、夏目くん。
私は傷ついてなんかいない。
傷ついてるのは夏目くんの方だ。
友達だと思ってた二人にあんなことを言われるなんて……ショックに決まっている。
……傷ついてる夏目くんに、なんて言えばいい?
なんて言えば元気になってくれるだろう?
「夏目くん」
「ん?」
「……近藤くんたちが言ってたことはあんまり気にしないで、元気出してね?」
「うん、ありがとう」
……と、当たり前のことしか言えなかった。
そもそも、友達が少なくて他人との関わり合いを極力避けている私が、誰かを励まそうとすること自体が無理な気がする……。