志岐さんと夏目くん
「私、夏目くんとは挨拶くらいしかしたことがないよね?」
「だからこそ志岐さんに頼むんだよ。 だってさぁ、見栄を張ったなんてみんなに知られたら恥ずかしいじゃん」
「あー……そういうことか」
友達が多いからこそ、みんなに見栄を張ったとバレるのが嫌なんだ。
その点、私は一人で過ごすのがほとんどだから……夏目くんがついた嘘を言いふらしたりはしない、と。
「ごめんね、やっぱり迷惑だった?」
「うん、すっごく迷惑。 いきなり彼女のフリとか、ほんと意味不明だよね」
「うぅ……ごめん」
しょぼん、とする夏目くんを見ながら、一つ息を吐く。
「……まったくもう。 そんなにヘコんだ顔した人を放置して帰れるわけないじゃん」
「え……じゃあ……」
「いいよ、今日だけね。 でも一緒に居られるのは、長くて一時間くらいだよ? 私、電車に三十分くらい乗って帰らなきゃいけないし」
「……うん、ありがとうっ!!」