志岐さんと夏目くん
「「 夏目くんっ……!! 」」
女子二人の声が上擦る。
夏目くんは……相変わらず笑ってるけれど、なんだか空気がピリついている。
「ねぇ、同じ教室内に居るんだから、俺にも声をかけたらいいんじゃない?」
「で、でも夏目くんは、友達と一緒に居たから……」
「いやいや、関係ないでしょ。 ここで志岐さんに声をかけてる時点で俺にも話が聞こえてるんだよ? なのにずーっと志岐さんにだけ喋りかけてるのは、どう考えてもおかしいよ」
苛立ったように言った夏目くんが、今度は私に視線を向ける。
彼女たちに向ける苛立ちの声とは違い、私にはとても柔らかな声だった。
「志岐さん、昨日のことは俺が話すから大丈夫だよ」
「夏目くんっ……でもそれはっ……」
「平気だから」
ふっと小さく息を吐き出したあと……夏目くんはクラス中に聞こえるように言葉を放った。
「昨日俺は志岐さんに「彼女のフリ」を頼んだんだよ。 だから手を繋いで帰ってたんだ」
みんなには黙っていたかっただろうことを、夏目くんは躊躇うことなく声に乗せていく。
「中学ん時の友達二人に「彼女が出来た」って自慢されてさ、それに張り合うために「俺にも出来たよ」って言ったんだ。 まぁ実際には彼女なんて居ないけど。 どうせ滅多に会わない奴らだったし、適当に言っときゃいいかーと思ってね。 でも昨日、急にソイツらと会うことになったんだ」
「そ、そうなのっ……?」
「そうだよ、「お互いの彼女を連れて一緒に遊ぼうぜ」ってね。 いやぁ〜超焦ったね、うん。 だってもうみんな帰っちゃってたし。 ていうか見栄を張ったなんてバレたら恥ずかしいから、誰にも頼みたくなかったし。 って思ってた時に、教室に残ってたのは志岐さんを見つけたんだ」