志岐さんと夏目くん
「……夏目くん、ごめん。 一緒には行けないよ」
一緒に行きたい。
でも行けない。
一緒に行ってしまったら、もう、抑えられなくなる。
「好き」が溢れ出して、止まらなくなってしまう……。
だからダメ。
頷いちゃダメなんだ。
「誘ってくれてありがとう。 でも私は、やっぱりみんなの手伝いをするね」
「……そっか」
「他の人を誘ったらどうかな? きっと、夏目くんと回りたい人はいっぱい居ると思うよ」
微笑みを浮かべながら、手元の折り紙へと視線を落とす。
目を合わせられない。
夏目くんの顔を見るのが怖い。
ううん、違う。
私の顔を見られるのが怖いんだ。
泣くのを我慢してる顔を、見せたくない……。
「……俺は、志岐さんだから誘ったんだけどね」
……え……?
「……それ、って……」
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。 そのあとそのまま小日向のことも探しくるよ」
「あ……うん……」
視線を合わせないまま短い会話を交わす。
そのあと夏目くんは、すぐに教室を出ていった。