志岐さんと夏目くん


「学園祭の準備期間中は、志岐さんを見てから帰るのが日課になってた。 「今日も一人だ」「あ、今日は女子たちと一緒だ」「あれ、今日は居ない」「よかった、今日は居た」……などなど、色々思いながらね」

「……メチャクチャ見てるね」

「うん、毎回その一瞬だけ すっげー集中して見てたよ」



そう言って、夏目くんはまた笑う。



「名前も知らないし、性格もわからない。 なのに気になって気になって仕方がなかったんだ」



そっと、髪を撫でられる。

当時のことを思い出しているのか、どこか寂しそうな顔で。



「だから男子と二人で作業してるのを見た時、すっげーショックだった。 まぁ最初は「同じ班の奴か」って思うだけだったけど、でも次の日もその次の日も、ソイツと二人きりだったから」

「……いやいやいやっ、それは普通に作業してただけだからっ」

「そうだとしても、当時はマジでヘコんだなぁ。「何喋ってるのかな?」 「仲が良いのかな?」「好きなのかな?」「実は付き合ってるのかな?」って感じでね」


「違う違う、その人とは同じ班ってだけで、本当に作業してただけだからっ。 ていうか、あの時の男子って──」

「鳴沢、でしょ?」

「──……うん」


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