志岐さんと夏目くん


……違う。

あれは私が勝手にしたことだ。

夏目くんは悪くない。



「……私は、私が悪いって思ってる。 だから夏目くんが後悔とか情けないとか思う必要はないよ」

「いや、俺が無理矢理に連れ出してなきゃ そもそもあんなことにはならなかった。 だから悪いのは俺だよ」

「ううん、無理矢理に連れ出されたあとでも、途中で帰ることは出来た。 その時に帰る選択をしなかったのは私だから、悪いのは私っ」

「でも……」

「いいから、黙って」



繋いでる手とは逆の手で夏目くんの口を手で塞ぐ。

その状態のまま、更に言葉を繋げていった。



「あの日をやり直すことは出来ないけど、そもそも私は やり直したいなんて思ってないよ。 だってあの日がなかったら、私は夏目くんのことを好きになっていないから」

「……」

「だからいいの。 好きって気持ちが通じ合ったから、もういいんだよ」



私の中にも後悔はある。

けれど いつまでも後悔したまま過ごしていくのは嫌だ。


だって、夏目くんと気持ちが通じ合ったんだ。

自分の「好き」と夏目くんの「好き」が同じだってわかったんだ。


だからそれでいい。

これから先、一緒に居られるのならそれでいい。


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