志岐さんと夏目くん
「鳴沢、俺には「おめでとう」って言ってくれないの?」
「「志岐さんに迷惑かけた、どうしよう」とウジウジしてた夏目から解放された俺、おめでとう〜」
「そっちかよ。 まぁ、うん、ウジウジしてて悪かったよ。 でも もう大丈夫。 色々ありがとう」
「どう致しまして」
ニコッと笑った鳴沢くんは、「じゃあ俺はメイドさんの仕事があるから〜」と言いながら去っていった。
それを見送ったあとに、私たちは空き教室へと向かって再び歩き出した。
……やっぱり緊張する。
近藤くんと山口くんに会うのはあの日以来だ。
女子二人は謝ってくれたけど、男子はきっと謝るとかそういうのじゃなく、どっちかといえば罵倒してきそう。
「志岐さん、大丈夫? やっぱりどこかで待ってる?」
と、夏目くんが私の顔を覗き込む。
神妙な顔をしてる私に気づいたみたいで、かなり心配そうな顔だ。
「……大丈夫、ちょっと緊張してるだけ」
「ドアのそばに居て、なんかあったらすぐに外に出られるようにしとこう。 教室にはみんなが居るから、もしもの時はそこに逃げ込めば大丈夫だよ」
「うん」
フゥ……と深く息を吐き出す。
そのあとに、離れたままだった夏目くんの手に自分の手を重ね、ギュッと強く握りしめた。
「大丈夫だよ」
という優しい声に頷きながら、彼らが居る空き教室へと足を踏み入れた。