君に捧げる一途な愛

「ちょっとお手洗いに行ってきます」

智美さんに言って立ち上がった。
個室を出て、通路を通ってレストルームに向かう。
用を足して、手を洗いながら鏡を見ると赤い顔の自分と目が合う。
ちょっと飲みすぎたかな、と反省しながら備え付けのペーパータオルで手を拭き、髪の毛を整える。
レストルームのドアを開けて通路を歩いていたら目の前に朝倉さんがいた。

コツン、と彼女の手から何か落ちて私の方に転がってきた。
屈んでそれを拾おうとした手が止まった。
見覚えのあるイルカのキーホルダーで、色はピンクだった。

私は恐る恐るそれを拾って朝倉さんに差し出すと、彼女はニッコリと笑った。

「拾ってくれてありがとうございます。これ、小笠原課長からお土産でもらったんです」

彼女の言葉に唖然とした。
そんなこと聞いていないんだけど。
それより、政宗さんからお土産でもらったってどういうことなんだろう。
意味がわからない。
もしそれが本当だとして、なんで私に話す必要があったんだろう。
様々な疑問が湧いてくる。
そんな私をよそに、朝倉さんは鋭い視線を向けてきた。

「木下さんて小笠原課長とどういう関係ですか?」

「どういうって……」

口ごもってしまう。
政宗さんの立場もあるし、ここで付き合っているなんて軽々しく言えるわけがない。
そもそも、朝倉さんに話す必要はないと思うんだけど。
なにも話さない私に追い討ちをかけるように言葉を放った。

「私、見たんですよね」

「な、なにを?」

「この前、水族館で二人を」

まさか、デートしているところを見られているとは思わなくて冷や汗が流れた。
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