君に捧げる一途な愛
それより、本気じゃない?譲る?
この人はなにを言っているの。
「朝倉さん、あなたは同期だからって自分のことをなんでも話すの?人にはそれぞれ価値観があるよね。博美は同期だけど、私は自衛のために黙っていることを選択した。それについてあなたにとやかく言われる筋合いはないし、人の気持ちを勝手に決めないで」
こんなことを言えば、朝倉さんの言葉を肯定しているのと同じだ。
でも、譲れとか言われて頭に血が上ってしまったんだから仕方ない。
自分がこんなに感情的になるなんて予想外だった。
「あーあ、同期に内緒にされた遠藤さんが可哀想。そうだ、私が遠藤さんに木下さんと小笠原課長が付き合っているって教えてあげましょうか?それを聞いた遠藤さんはどう思うでしょうね」
フフ、と私を見て笑う。
可哀想って……全く心がこもってないけど。
朝倉さんてこんな子だったんだ。
「うわっ、性格悪すぎて引くわー」
不意に聞こえてきた言葉に、てっきり私の心の声が漏れたのかと思ったけど、その声は男性のものだった。
私と朝倉さんの視線が同時に声の主に向けられた。
「ご、合田……」
朝倉さんが呟く。
レストルームのドア付近の壁にもたれ、こちらを呆れたように見ていた合田くんがそばにやって来た。
「二人とも、ちょっとこっちに」
そう言って、のれんで仕切られた半個室に移動させられた。
移動する前、空いている場所を見つけた合田くんは「少し話をするので使わせてもらっていいですか」と居酒屋の店員に許可を取っていた。
あのまま通路で話していたら他のお客さんの迷惑になるところだった。