君に捧げる一途な愛

飲み会がお開きになり、居酒屋を出ると冷たい風が吹き、ブルリと身体が震えた。

二次会に行く人の集団がゾロゾロと歩き始め、私はその場から離れようとしたら「志乃ちゃんこっち」と智美さん手を引かれて足を止めた。
私もだけど、智美さんも二次会には行かない組だ。

「どうしたんですか?」

「大ちゃんたちがタクシーをつかまえてくれてるから一緒に帰ろう」

「え?電車で帰れますよ?」

「あのね、そんな真っ赤な顔してる志乃ちゃんを一人で帰せるわけないでしょ。小笠原さんも心配してるよ」

政宗さんの名前が出てドキッとした。
さっきの飲み会では一言も話していない。
自分から政宗さんのそばに行くなんてことは不自然すぎて、私には絶対に無理な話だった。

他部署交流とはいえ、経理部課長のそばに入社二年目の私が行ける度胸や勇気なんて持ち合わせていなかった。
そもそも、私が政宗さんのそばに行ったところで、いろんな詮索をされるのがオチで完全に自殺行為だ。

今のところ、朝倉さんたちが喋らない限りは私と政宗さんが付き合っているという話は広がらない思う。
その朝倉さんは、私と合田くんと話したあとからは政宗さんの近くには座っていなかった。
その代わり、総務部の女性が政宗さんの隣を陣取っていた。
ぼんやりと眺めていたら、その女性が笑いながら政宗さんの腕に触れていた。
それを見て触らないでと嫉妬の芽が顔を出す。
こんな些細なことで、とは思うけど政宗さんのことが好きだからヤキモチをやいてしまうのは仕方ない。

政宗さんは進んで喋るということはなかったけど、話しかけられたら答えているように見えた。
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