君に捧げる一途な愛

綾乃に元カレを取られた後、何もやる気の起きなかった私に由香が料理教室に行こうと誘ってくれたんだ。
大学卒業と同時に通うのをやめたけど。

「ねぇ、あの料理教室覚えてる?」

料理教室を指差しながら由香に聞く。

「もちろんよ。二人でよく通ったもんね」

「あの時、由香に誘ってもらったお陰で気分転換になったし、料理も上達して一石二鳥だったよ」

「あー、妹に乗り換えたダメ男事件の時よね。あいつは志乃にはもったいなかったし、はやく本性を表してくれてよかったわ」

由香はフン、と鼻をならす。
思い出話をしながら料理教室を通り過ぎようとしたら、二人の女性がそこから出てきた。

「ねぇ、あれって先生たちじゃない?」

「ホントだ。声かけてみようか。森沢先生、百合さん!こんにちは」

由香が大きな声で呼び掛ける。

「あら、由香ちゃんと志乃ちゃんじゃない。久しぶりね」

由香の声に気づいた森沢先生が笑顔を向けてくれた。
私たちは二人に駆け寄った。

「「お久しぶりです」」

「ふふ、二人とも元気そうね」

私たちがハモれば百合さんが優しく目を細めた。

森沢先生は言わずもがな、森沢料理教室の先生で、百合さんは先生の助手をしていた。
二人とも私の母親より少し年上かなという年齢だ。
一年以上通ったので、森沢先生たちとは私と由香に彼氏がいないというプライベートな話をするぐらい仲良くなった。

実の母親には優しく声をかけてもらった記憶がほぼない私にとって森沢先生たちの存在は、第二のお母さんと言っても過言ではない。
< 154 / 219 >

この作品をシェア

pagetop