君に捧げる一途な愛
私の異変に気づいた伊織さんに「聞いてないの?」と言われ、胸の奥がギュッと痛んだ。

「なにも聞いてません……」

私は静かに口を開く。
伊織さんは全然悪くないのに困った表情を浮かべている。

「え、ごめん。なんか先走って余計なこと言っちゃったかな」

伊織さんはオロオロし出す。

「……いえ、大丈夫、です」

どうにか絞り出す。
本当は大丈夫なんかじゃない。
さっきから胸が痛くて仕方ない。

「あのね、きっとオガも……」

伊織さんは悪気があって言ったわけではないのに、どうにかフォローしてくれようとしているのが伝わってきた。
それが余計辛くて申し訳なくなった。

この場に居続けることが出来なくて、どうしようかと思案した結果、バッグのスマホを取り出した。
それを見て口を開く。

「あの、用事を思い出したので帰ります。政宗さんには先に帰ったとお伝えください」

私はお辞儀をしてその場を離れた。

「志乃ちゃん、待って」

背後から伊織さんの声が聞こえたけど、それに振り返ることなく私は階段を駆け下りて外に出た。


外はどしゃ降り、冬の雨は容赦なく私の身体を濡らす。
ここまでは政宗さんの車で連れてきてもらったので、帰る手段はタクシーしかない。
雨の中、どうにか捕まえたタクシーに乗り込んだ。

「濡れていてすみません」

「大丈夫ですよ」

主に濡れたのは上半身でスカートはそこまで濡れていない。
でも、優しい運転手さんでよかった。
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