君に捧げる一途な愛
マンション近くのコンビニに止めてもらい、お金を支払ってタクシーを降りた。
なにがあるか分からないという自分の危機管理でタクシーの運転手であっても住んでいるマンションを教えるのは嫌だった。
雨の中、マンションへと急ぐ。
途中、水溜まりに入ってしまい靴も足もびしょ濡れだ。
マンションのエントランスに足を踏み入れたとき、スマホが鳴っているのに気づく。
バッグから取り出して画面をみると、政宗さんからの着信だった。
今の私は、それに出る勇気はなくて鳴り止むのを待っていたら留守電に切り替わり、電話が切れた。
運がいいのか悪いのか、その直後に充電がなくなり画面は真っ黒になっていた。
自分の部屋に入って鍵を閉めると、玄関ドアにもたれてズルズルと座り込んだ。
身体も濡れ、髪の毛からは雨の雫が垂れているけど今はそれも気にならなかった。
御曹司?
会社を辞めて親の会社に戻る?
なにそれ、全然知らない。
どうして私はなにも教えてもらっていなかったんだろう。
そんな話をするに値しないから?
伊織さんの「聞いてないの」という言葉にショックを受けていた。
目に涙の膜が張り、涙が零れ落ちる。
政宗さんが話してくれなかった理由が思いつかない。
マイナス思考に陥った頭では冷静に考えることができなかった。
そのうち教えてくれるつもりだったのかな。
それとも、私とは会社を辞めるまでの付き合いだったってこと?
でも、政宗さんはそんな人じゃない……と思う。
不安が募り弱い心が悲鳴をあげていて、しばらくの間、その場から動けなかった。