君に捧げる一途な愛
後悔 side政宗

「志乃ちゃん、待って」

コートにいたら、女性の声が耳に届いた。

志乃?
観客席に視線を向けると、さっきまでそこにいた志乃の姿が消えていた。
嫌な胸騒ぎがしていたら、佐々木がコートの入り口まで降りてきて「ごめん、オガ」と泣きそうな顔で謝罪してきた。
佐々木は幸也の彼女だ。
さっきまで志乃と話をしている姿は目にしていた。
その佐々木が謝罪?

「いったい何があったんだ?」

「私、余計なことを言ってしまって……」

「余計なことって」

「オガがそろそろ親の会社に戻るんじゃないかって言っちゃった」

「は?」

一瞬、耳を疑った。
佐々木は「ごめんなさい」と言って悔いる様に唇を噛んでいた。
俺は混乱し、言葉が出なかった。

「二人とも、ちょっと上に行って話そうか」

異変に気づいた幸也が俺たちのそばにやって来た。
幸也に促されて観客席に行き、さっき志乃がいたベンチに三人で座る。

少し気持ちも落ち着き、佐々木に経緯を聞いた。

「私、志乃ちゃんがオガの家のことを知ってると思って親の会社に戻るって言ってしまったの。そしたら、聞いてないって言って……。私、志乃ちゃんを傷つけた。本当にごめんなさい」

佐々木は再び頭を下げた。
そんな佐々木の様子を見ていた幸也が口を開いた。

「政宗、お前は志乃ちゃんに自分の家のことを話していなかったのか?」

「近々話そうと思っていた」

「そうか……」

志乃にまだ自分のことを話せてはいなかった。
別に隠しているつもりはなく、時期が来たら話そうと思っていた。

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