君に捧げる一途な愛
十年程度『ラブイット』で経験を積んだ後、親父の会社に戻ることは規定路線だった。
翔真は俺とは違い、自社の部署を転々として経験を積むように父親から言われていたらしい。
俺も何度か部署異動を経験し、今の経理部に
配属になった。
『ラブイット』で順調に年月を重ねていたら、二十代後半から母親や周りから結婚という言葉をよく耳にするようになった。
母親から『彼女はいないのか』と何度も聞かれ、適当にかわしていたら見合いを持ち掛けられるようになった。
最初のうちは母親の顔を立てるために、仕方なく見合いをした。
相変わらず、肩書きや容姿で媚を売ってくる女性には全く心が動かなかった。
こういった女性は俺が太っていたり無一文だったらどうするんだろうと、単純に興味があった。
『会社を辞めて『オガサワラ』の跡継ぎじゃなくなっても結婚できますか?』と聞けば、見合いした女性は言葉に詰まる。
つまりはそういうことだ。
幼少期に味わった負の感情は、俺にとっては根深いものだった。
俺が見合い話を断るようになると、母親も諦めたのか話を持ち掛けることはしなくなった。
言い寄ってくる打算的な女性に期待も興味もなくて、すっかり冷めきっていた。
そんな時に出会ったのが志乃だった。
比嘉部長から奥さん経由でいい子がいると聞かされていた。
始まりは、本当に世間話のついでといった感じだった。
何度も話題に出てくるので『志乃ちゃん』という名前は覚えていた。