君に捧げる一途な愛
一階につき、エレベーターを歩いているとエントランス脇にある来客用のスペースが視界に入った。
そこは、社員と待ち合わせしたり、来客時に軽く打ち合わせしたりと様々な用途で使われている。
横を通り過ぎようとしたとき、そのスペースにいた一人の男性と目が合った。
その男性は大きく目を見開いて立ち上がると、私のそばにやってきた。
「志乃、だよな?」
私の名前を呼んだ。
目の前の男性はスーツを着て、清涼感のある短髪に二重の目。
左の口元にあるほくろは見覚えがある。
「……本田先輩?」
「やっぱり志乃だ。ここで働いていたんだな」
人懐こい笑顔を見せてくる。
私が大学生の時に二週間だけ付き合った人だ。
初めての彼氏だったのに、いとも簡単に私から茅乃に乗り換えた人。
できれば二度と会いたくなかったのに。
返事をするのも嫌だったけど、無言で立ち去るのは失礼かもしれない。
「あの、仕事なので失礼します」
「ちょっと待って。俺、志乃と話がしたいんだけど」
「申し訳ないのですが、私は話すことがありません」
頭を下げてその場から離れようとしたら腕を強く掴まれた。
「痛っ、」
「だから、話があるって……」
「お待たせしました」
先輩の言葉を遮るように、第三者の男性の声が聞こえた。
「お世話になっています、本田さん。失礼ですが、うちの社員になにか用事ですか?」
その声の主は、営業部の立花課長だった。