君に捧げる一途な愛
「いえ、知り合いがいたので話をしようと思って」
「話……ですか?そろそろ打ち合わせの時間ですけど、まだ話をしますか?」
立花課長は怪訝そうな顔で先輩を見ている。
「いえ、そんなことは……」
「それでしたら、早くその手を離してあげてください」
「あ、すみません」
立花課長に声をかけられた先輩は、慌てて私の腕を離した。
「小松、本田さんを案内して」
立花課長は後ろに控えていた小松さんに声をかけた。
「はい。では、本田さん行きましょう」
そう言って、小松さんは先輩を連れていった。
私が先輩の後ろ姿を見て小さく息を吐いていたら、立花課長が心配そうに声をかけてきた。
「木下さん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
私は深く頭を下げた。
立花課長が来てくれたお陰で助かった。
本田先輩、立花課長とアポイントを取っていたということは、うちの取引業者の人なんだ。
基本、私は倉庫の事務所にいるから今後は会うこともないだろうけど。
それより、話ってなんだったんだろう。
今更、私は話すことなんてないのに。
「木下さん、込み入ったことを聞くようだけど、彼はストーカーとかそういった類ではないよね?」
「はい。大学時代の先輩なんですけど、久しぶりに会って……」
さっきのやり取りを不審に思ったのか、立花課長が心配そうな表情で口を開く。
さすがにこの場面で"元カレです”とは言えなかった。