君に捧げる一途な愛

「お前がなにひとつ話してくれないからだろ」

政宗さんが嫌そうな顔をすれば、お父さんは不服そうに言う。

それより、政宗さんがなにも話していなかったことに驚いた。
ここは私が話さなきゃと口を開いた。

「政宗さんとは部署は違うんですけど同じ職場で知り合ってお付き合いさせていただくことになりました」

「まあ、そうだったのね。政宗ってあまり喋らないしつまらないでしょ。よく、こんな堅物と付き合おうと思ってくれたわね」

「母さん、自分の息子に対して酷くないか」

「なに言ってるのよ、本当のことでしょ。私の連絡を無視ばかりするし、そっけないし」

百合さんは頬を膨らませた。

料理教室での百合さんは、大和撫子というかお上品な人だなと思っていたけど、こんなに可愛らしい人だったんだ。
新しい発見だ。

「息子なんてそんなもんだろ」

「政孝はもう少し話してくれるわよ」

政孝……。
政宗さんには弟と妹がいると聞いている。
きっと弟さんの名前なんだろう。

「二人とも、志乃さんの前で言い合いするんじゃないよ」

「やだわ、私ったら。志乃ちゃんごめんなさいね」

「いえ」

なんだかんだ言って、政宗さんと百合さんは仲がいいんだろう。

「ところで志乃さん、政宗が『オガサワラ』の後継者という話は聞いているかい?」

さっきとは打って変わって、政宗さんのお父さんが真面目な表情で問いかけてきて背筋が伸びた。
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