君に捧げる一途な愛
「しのちゃん、すべりだい」
啓介くんがグイグイと私の手を引っ張り、公園の滑り台の方へ向かう。
「ちょっと待って、啓介くん」
三歳児のパワーにすでに圧倒されている。
比嘉家のマンション近くの公園にやってきた。
歩いて五分もかからなかった。
公園自体はそこまで広い敷地という訳ではないけど、滑り台やブランコ、鉄棒や砂場がある。
芝生も生えていて、レジャーシートを敷いている家族連れの姿もチラホラいる。
今日は晴れているけど、日差しも真夏のギラギラと照りつけるような暑さではない。
「いっしょにすべろ」
「え、私?」
可愛く誘われたけど、滑り台なんて十年以上滑ってないから不安しかない。
「木下さん、荷物を持っておくから行っておいで」
小笠原課長は私の肩にかかっていたバッグに手を伸ばす。
「ありがとうございます。あの、小笠原課長は滑らないんですか?」
「俺?指名されてないし、比嘉部長に啓介の写真を撮るように言われているんだ。だから、木下さんに任せるよ」
その口ぶりから、なんとなくだけど滑りたくないというのが感じ取れた。
よく考えたら、小笠原課長が滑り台を滑るなんて想像できないよね。
滑り台か……。
こうなったら、明日以降の筋肉痛のことは考えず、とことん付き合おう。
公園に行くからと、今日はボーダーのニットにデニムという動きやすい服装にした。
もちろん足元はスニーカーだ。