君に捧げる一途な愛

「まさか、そんなことになっているとはね」

由香がモスコミュールを一口飲む。
今、私たちは『ダークムーン』というバーに来ている。

最初はイタリアンバルでご飯を食べながら、お互いの近況報告していた。
でも、隣の席に座っていたのが学生のグループで、賑やかというか正直うるさかった。
由香の声が隣の声にかき消され、挙句の果てには隣の会話に気を取られる始末。
学生たちは周りを気にすることなく、楽しそうに喋りながら笑っていた。
これにはもうお手上げだ。
私たちは、さっさとご飯を食べて場所を変えてから話をすることにした。
そして、由香に連れてきてもらったのがこのバーだ。
由香はこのバーの存在をお兄ちゃんに教えてもらったらしく、来たのは二回目と言っていた。
お洒落な空間にジャズのBGMが心地いい。

このバーのオーナーは朔斗さんと呼ばれていて、私の両親ぐらいの年齢のダンディな人。
バーテンダーは洋介さんといい、二十代半ばらしい。

『ダークムーン』はカウンターの十席のみ。
お客さんは五十代ぐらいの男性が一人、左端に座ってオーナーと談笑していた。
私と由香は一番右端に座った。

さっきのバルで、一週間前にあった出来事を軽く話をしていた。
比嘉夫妻の結婚記念日に、二人の息子を預かった。
そこに、もう一人の助っ人として小笠原課長が来てくれたこと。
成り行きで晩ご飯を一緒に食べたことなど。
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