君に捧げる一途な愛

九条さんは海外事業部だけあって、英語はペラペラで中国語も喋れるらしく、トリリンガルだと由香が言っていた。

「うん。すごく優しくてね、頼りがいがあるんだ。それに、話が面白くていつも笑わせてくれるの。九条さんとなら将来のビジョンが見えたんだよね」

「そっか。よかったね!いい人に巡り合えて」

由香が幸せそうな表情で話す姿を見て、私まで嬉しくなる。
将来のビジョンということは、結婚を見据えてということなんだろう。

「うん。だから、志乃も自分の気持ちには素直になった方がいいよ」

「えっ」

「もしね、志乃が小笠原課長のことがいいなと思っているなら、その気持ちに蓋をするようなことはしないで欲しい」

由香は真剣な表情で私を見つめる。
どうしてここで小笠原課長の名前が出るんだろう。

「私もね、九条さんに告白されてすぐに返事は出せなかったんだ。いい人だなとは思うけど、なんか一歩踏み出せなかったの。でもね、九条さんが私に見せる笑顔や優しさを他の女の人に向けたらって考えたらすごく嫌だった。私だけに向けてほしいって思ったの」

由香はグラスの縁についた水滴を指でなぞった。

一歩踏み出す、か……。
私にもできるだろうか。
それより私は気になっていることがあった。

「ちょっと聞きたいんだけど、どうして由香は小笠原課長のことがいいなと思っているなら、なんて言ったの?」

「志乃、気づいてる?」

「なにが?」

「志乃ってさ、男の人のことは全く話さないのに小笠原課長のことを話してくれたのは二回目だよ」

思いもよらないことを言われ、私は言葉を失った。
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