君に捧げる一途な愛

欲か……。
確かに博美の言うことは分かるけど、私は嘘をついたり人を簡単に裏切ったりしない誠実な人がいい。
この考えは、人付き合いにおいて男女ともに共通している。

そんな風に考えるようになったのは、私が幼少期から経験してきた出来事が関係している。
欲しいものがあっても簡単に奪われる。
だったら、最初からなにも望まない方がいいと考えるようになった。

欲しいものは欲しいと言える人が羨ましい。
年齢を重ねるにつれ、諦めてばかりじゃいけないと思うけど、また奪われてしまうかもしれないという不安が付きまとう。
いい加減、このトラウマから解放されたい。
強い自分に生まれ変わりたいのが本音だ。

「まぁ、でも真面目な志乃らしい答えだね。イケメン大好き、とか玉の輿にのりたいとか志乃が言い出したらマジで怖いわ」

博美の中の私のイメージっていったいどうなってるんだろう。
そこまで清廉潔白とかではないと思うんだけど。

「あー、彼氏が欲しい。出会いが欲しいー!」

そう言って残っていたビールを飲み干す。

「ちょっと、声が大きいよ。静かにしなよ」

大きな声で彼氏が欲しいという博美を窘める。
居酒屋で騒ぐとか恥ずかしすぎる。

博美は黙っていれば美人なのに、もったいない。
今は酔いが回っているのか、いつもより声が大きいし。

「すみませーん、ビールのお代わりください」

店員に声をかけ、何杯目か分からないお酒の注文をする博美に思わず苦笑いした。
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