君に捧げる一途な愛
先週、木下さんと駅で別れたあと、なかなか連絡できずにいた。
仕事中、木下さんの同期の遠藤さんの笑い声が耳に届く。
仕事をしている手を止めて、隣に座っている後輩に話しかけている姿にため息が出る。
きっと、木下さんは遠藤さんからうっとおしい上司の話を聞かされているだろう。
それだけでもマイナスポイントなのに、何度か会っただけの他部署の上司から食事の誘いの連絡をして嫌がられないだろうか。
あれこれ考えていたら、連絡できずに日にちだけが過ぎていた。
比嘉部長から『どうだった?誘ったのか?』と聞かれるけど、『まだ誘えてません』としか答えられなかった。
『仕事の決断は素早く正確なのに、自分の恋愛になると決断力ゼロだな』と呆れられた。
ぐうの音も出ず、ため息の数だけが増えていた。
数日前に幸也から週末に飲みに行こうと誘われていた。
いつも通っていたバーの扉を開けたら木下さんがいて、こんな偶然があるのかと驚いた。
幸也に木下さんのことを話すと、ヘタレだと笑われて発破をかけられる。
そして『今日中に動け。本気で好きなら断られても食らいつけよ。お前がヘタレている間に他のやつに奪われてもいいのか?俺なんて伊織に何度断られたかわからない』と、どや顔で言っていた。
確かにその通りだ。
帰り際にでも誘おうと意気込んでいたら、木下さんが酒に酔ったのか足元がふらついていた。
急に幸也が自分が木下さんを送ると言って、俺に意味深な視線を送ってきた。
そういうことか。
幸也なりに俺が動きやすいようにしてくれたんだろう。
俺が幸也の彼女の存在を言えば、望月妹がなぜか加勢してくれた。