君に捧げる一途な愛

「朝倉さんて子は小笠原課長のこと好きなのかもしれない。悪く言わないでくださいとか、私のために悪者になってくれているなんて、何とも思ってなかったら普通は言わないでしょ。なんか健気さ全開だったし、アヒル口なんて久々に見たわ」

「そんなことやってた?」

「うん、やってた。志乃は下を向いてご飯食べていたから気が付かなかったのかもね。遠藤さんに向かって強気で喋っていたから、つい観察しちゃった。どんな表情で喋っているのかなってみていたら、普通に『助かります』って言った後の口はアヒルだったわ。もう、無意識に出ちゃうんだろうね」

由香は秘書をやっているから、人の表情とか話し方をいろいろ観察しているんだろう。
由香は昔から洞察力が鋭かったので、秘書って仕事は由香の天職なのかも。

それより、朝倉さんが小笠原課長のことを好き……か。
一気にモヤモヤが広がっていく。

「あとさ、朝倉さんはしたたかなんだろうなっていうのがうかがえたわ。あの人、頭の回転が速くて計算高い気がする」

「どういうこと?」

「そもそも、私たちがいる前で遠藤さんに愚痴というかあんなことを言わないと思う。ほぼほぼ初対面の人の前で話す内容じゃないでしょ。でも、彼女はそれを利用したのよ」

利用?
私は由香の言わんとすることを必死に理解しようと考える。

私や由香は博美の同期だ。
でも、朝倉さんは見たことはあるけど、一度も話したことがない。
知らない先輩の同期がいる前で、ダメだしというかあんなにハッキリと自分の気持ちを臆することなく言った。
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