君に捧げる一途な愛
その日の仕事が終わり、倉庫内の事務所を出て歩いていたら背後から声をかけられた。
「志乃りん、駅まで送りましょうか?」
私のことを変なあだ名で呼ぶのはひとりしかいない。
合田くんだ。
何度言っても直さないので、訂正するのを諦めて受け入れている。
私が振り返れば、笑顔で合田くんが近づいてきた。
せっかくの申し出だけど、私の答えは決まっている。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「また志乃りんにフラれた~」
さほどショックを受けている風でもなく、車の鍵を付けているキーホルダーの輪に人差し指を入れてクルクル回しながら言う。
またフラれたとか言うのは止めてほしい。
会社の敷地内で言うなんて誰に聞かれるか分からないので困る。
合田くんはきっとなにも考えていないんだろう。
一歳しか違わないのに、なんか合田くんの感覚とは合わない。
私の考え方が真面目過ぎるのか、合田くんが軽すぎるのか……。
どちらかと言えば、合田くんは苦手なタイプかもしれない。
口先だけというか、本心が見えない。
「ちょっと合田くん、また志乃ちゃんに迷惑かけているんじゃないでしょうね」
立ち止まって話をしていた私たちに声をかけてくる人がいた。
「智美さんっ」
呆れたような表情で智美さんが近づいてくる。
「そんなことしてませんよ!ねぇ、志乃りん」
合田んくんは口を尖らせ、私に同意を求めてくる。
「合田くんには大きな声で変なことを言われただけで、今はそこまで迷惑はかけられていません」
私の言葉に智美さんは「はぁ」とため息をついた。